最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)769号 判決 1969年11月27日
上告人
石橋孝彦
右法定代理人
親権者母
石橋たき
代理人
嶋田敬
被上告人
検事総長
井本台吉
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人嶋田敬の上告理由について。
所論は、要するに、内縁関係の成立した日から二〇〇日後、内縁関係の解消した日から三〇〇日以内に生まれた子については、認知の訴の出訴期間に関する民法七八七条但書の規定は適用されないとの見解にたつて、これと異なる原審の判断を非難するにある。
しかしながら、同条但書が、認知の訴の出訴期間を、父または母の死亡の日から三年以内と定めているのは、父または母の死後も長期にわたつて身分関係を不安定な状態におくことによつて身分関係に伴う法的安定性が害されることを避けようとするにあり、民注がこの制限に対して特段の例外を認めておらず、戦争による災害などの場合には、特別立法によつて、個別的に右制限規定の適用を排除している(昭和二四年法律第二〇六号認知の訴の特例に関する法律参照)ことに鑑みれば、父子関係が確実であるからといつて、直ちに右規定の適用を排除しうるものとすることはできない。内縁の妻の懐胎した子の父性を認定するにあたつて、婚姻の場合における父性推定に関する民法七七二条の規定を類推適用すべきことは、所論のとおり、既に当裁判所の判例とするところであるが、右により父性の推定を受けるとの一事によつて、前記制限の例外を認めることはできない。所論のような見解によるときには、実際上、認知の訴において前記のような出訴期間の制限を設けた趣旨が没却されるおそれなしとしないのである。
したがつて、右と同旨の見解のもとに、本件認知の訴を却下すべきものとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解にたつて原判決を攻撃するに帰し、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)